多度津駅から北、U字型の連絡線は多度津工場へつながっています。ここの踏切から見えるものと言えば、無蓋車トキ25797と有蓋車ワラ1。トキ25797はトキ25000の現存車でもしかしたら最も古いかもしれません。鉱石や部品輸送用に近年まで残っていたので見かける事も多かった貨車ですが、急速に姿を消してしまいました。ワラ1は現存車で最も古いどころか、そのまんまトップナンバー。国鉄時代に運用を離脱して多度津工場で管理されてきました。
ワラ1は1962年から17367両製造された汎用車で、ワム80000と共に国鉄貨車の主力でした。従来車より容積が大きいため需要も大きかったのですが、量産開始間もない1963年11月9日の夜に同型車が鶴見駅で脱線し、横須賀線の電車同士が衝突する大惨事「鶴見事故」を起こした因縁の貨車。大きい車体の割りに軸間距離が短く、車体が動揺しやすかったため、直線区間の高速運転で競合脱線を起こしやすかったようです。競合脱線のメカニズムが解明され始めた頃は既に国鉄末期で、貨物の縮小とともにワラ1は全て廃車となりました。
高度成長期とともに生まれたワラ1は、様々な出来事を見つめてきた生き証人。これからも四国の片隅で、静かに時代を見守って行く事でしょう。